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後ろ向きへの進化

話題の3D映画というのを、映画館で一度見てみよう、と思って、ジョニー・デップの出ている「Alice in Wonderland」を見に行った。
「アバター」は世のなか大絶賛だったが、ちっとも見る気がおきなかった。キャラクターが魅力的でないし、先住民とのなんとかかんとかと聞いたところで、今のディズニーがそんなテーマを扱うあたり、デニーズのラーメンみたいな薄っぺらさが想像つく。私の周囲の映画好きも、「アバター」を見たという人はいなかった。というか、「見ない」と言っていた。
それで、デップ頼みのアリスで、初3D体験をしたのである。
3Dの効果を得るために、皆、ブルースブラザーズみたいなサングラスをして鑑賞する。
もう、サングラスの色のフィルターで違和感が生じる。せっかくの美しい映像が暗くなってしまう。
3Dは、手前に何かが迫ってくる、飛んでくるという緊迫感を生むにはいい。でもそのために画像はCG化されていなければならない。つまり、実写映像では3Dにしてもあまり意味がない。字幕を手前に浮き上がらせてたけど、意味ある?
なんだか、この映画は3D効果をどこで取り入れ、どれだけ見せるかというティム・バートンの実験作のようで、そちらばかりに神経が行っているような感じがした。特殊メイクや赤の女王の演技などが従来の映画の魅力の面目を保ってはいたが。
映画はすぐにDVD化されてしまう昨今の状況から、映画館に足を運ばせるための体験型の興業が意識されて3Dという手段が画されたとも聞く。そもそも映画館とは娯楽の館である。
最初にアメリカで公開された映画は10分程度、機関車が走る様を大スクリーンで映写しただけらしいが、それを見るために人々は映画館に大行列をし、絶賛したそうだ。
「アバター」が絶賛されたのだとしたら、その意味はこの機関車の映像と同じだ。
その意味では、映画館は現代にあった娯楽の館としての存在意義を見直しする時期にきている。
見たい映画は自宅でDVDかなにかをじっくり見た方がいい、という人が増えているのだから。
それで3Dに話を戻すと、手前にものが飛んできたり、画面にひきずり込まれそうな、言い換えれば「こっちにくるか」「あっちに行くか」の感覚だけを味わうビックリハウス効果を特徴にした作品制作や施設のために費やすコストが、顧客の満足感に見合っているかというと、素人の私から見ると甚だ疑問である。
そう考えていて、進化というのは必ずしも前向きだけとは限らないのだ思った。
かつて、映画が「総天然色」すなわち、カラーになったとき、フィルムの解像度が黒白フィルムほど高くなかったので、カラーにしたために画面の粒子が荒れてしまうということがあった。ほどなく、カラーフィルムの精度もあがって、きめの細かい美しい映像が提供されるようになるのだが、3Dに関しては、映画がすべて3Dになってもあまり意味がないような気がする。
それなら人間が演じている芝居を見に行ったほうがいいかもしれない。演劇の世界では、背景に映像を使うことをよくやっているから、そっちの方がよっぽど気の利いた3Dじゃないか。
一回性、体験型という意味でも、その場所に足を運ぶ価値は高い。DVD化される芝居もあまりないし。
そのためには、まず大衆を引きつける面白い芝居や、演技でうならせる役者が輩出する必要がある・・・。
徹底的に後ろ向きに進化して、映画館が廃れて芝居小屋が林立していったら、これは面白いと思う。
でも今の若い連中にそれだけのパワーや貪欲さがあるかなあ。
ネット経由の過剰な娯楽のエサに満足しちゃってる感じがあるからね。
でも、ファミレスじゃなくて、うまいラーメンを食べさせる店に行こうとする情熱がある限り、人類に望みはまだあると思う。
by k_janis | 2010-07-02 03:58 | note